本文へ進む
DR.iSHiGURO

CHiMYAKU 探究の記録

地球のストレッチってどういうこと?

左に筆者をモデルにした短髪の人物が前屈し、両手のひらを地面につけている。右に不揃いの石のまわりを曲がって流れる小川。身体と土地を並べた水彩の概念画(AI生成)
身体を伸ばす。土地にゆらぎを返す。
知識状態
観察
公開日
最終更新

前屈すると、手のひらがべたっと地面につく。

僕はふだんからストレッチをしている。体を動かせる幅が広がると、伸ばしている実感がある。「やってる感」があるから、自然に自分でも伸ばしている。床にあるものを拾うときも、膝を曲げずにすっと手が届く。

僕にとっての柔らかさは、そんな日常の手応えだ。

僕は、健康とは「しなやかに、めぐること」だと考えている。体を伸ばすことも、血のめぐりをしなやかに保つ手入れなのではないか。

そして僕は、土地にもストレッチをしている。石を配して、水の流れに緩急を返す。「地球のストレッチ」という言葉には、身体と土地を行き来する、僕の健康観がある。

伸ばしているのは、筋肉だけだろうか

ストレッチを続けると、血管にも変化が起きるのだろうか。

2020年に発表された研究では、健康な若者39人を、両脚を伸ばす群、片脚だけを伸ばす群、ストレッチを行わない群の三つに分けた。12週間後、ストレッチをした群では、血流の変化に応じて血管が広がる反応や、動脈の硬さを示す指標が改善した。直接伸ばしていない腕の血管にも、反応の変化が見られた。

体を伸ばす。その力を緩める。そのあいだには血流の変化がある。研究者たちは、こうした繰り返しが血管への刺激となり、血流を調節する働きに関わるのではないかと考えている。詳しい仕組みは、まだすべてが確かめられたわけではない。

小規模な試験だが、可動域という目に見える変化の奥に、血管の応答がある。僕のいう「しなやかさ」を、そこまで掘ってみたくなる。

柔らかい体は、長く健やかに生きるのか

2024年の研究では、46〜65歳の3,139人を平均12.9年追跡し、体の柔軟性が高い人ほど死亡リスクが低いという関連が報告された。柔軟性は、七つの関節の二十の動きを合わせて評価している。

ただし、柔軟性の高さを測ることと、ストレッチの効果を調べることは違う。ストレッチの習慣と死亡率に明確な関連が見られなかった研究もある。ストレッチで寿命や健康寿命が延びるかは、これらの結果からは言い切れない。

石で、流れをほぐす

水の流れるところに、石を置く。

水が石にぶつかって向きを変える。速く通るところと、ゆっくり動くところができる。瀬と淵。緩急が生まれる。

僕が石を配しながら返したいのは、このゆらぎだ。

石そのものは硬い。その硬い石の置き方で、流れに変化する余地をつくる。そこが、地球のストレッチの面白いところだと思う。

大小や形の異なる石が重なる自然の小川。石の隙間で水が分かれ、小さな落ち込みの先に静かな水面が広がる水彩の概念画(AI生成)
自然の川に学ぶ、流れの緩急。

身体では、伸ばす、緩めるという動きのなかで血流が変わる。土地では、石や地形との関わりのなかで水の流れが変わる。働く仕組みはそれぞれ違うが、僕は両方に、めぐりを支えるしなやかさを見ている。

この健康観を、人の病気と土地の傷みから掘り下げたのが、身体と土地を一緒に診る「流域医療」だ。

水が急いで通り抜けるところもあれば、ゆっくり浸みるところもある。雨の日と、乾く日がある。その変化を受け止められる土地を育てたい。

隙間で働く生きもの

石のあいだを流れる水は、目で追える。では、土の中の水はどうだろう。

僕の古民家の敷地には、一度崩れ、積み直した石垣がある。石の隙間から、シダが伸びている。その根は、どこまで入っているのだろう。石の裏側で、水や空気はどう動いているのだろう。

筆者の土地で積み直した石垣。石の隙間からシダが伸びている
僕の土地で積み直した石垣。隙間からシダが伸びている。(2024年10月撮影)

土中の水と空気の流れに目を向け、環境再生に取り組んでいるのが、高田宏臣さんだ。高田さんが提唱する「有機土木」では、石や枝、落ち葉、炭などを使い、生きものが働ける環境を整えていく。

『未来が変わる! 土中環境と有機土木』には、石積みの裏側の隙間へ落ち葉や藁を入れる例がある。菌の体をつくる細い糸、菌糸が広がり、土の粒が小さな塊にまとまり、根が入り込んでいく。その後に生きものが働く時間まで見通して、石を組む。

枝や落ち葉、炭も、その手入れに登場する。枝で落ち葉や土を受け止め、水が浸みる小さな平坦面をつくる。炭の細かな空洞を、生きものや水・空気の動きを助ける場として生かす。高田さんは、そうした材料の形や性質を、その場所に合わせて使っている。

石の隙間から、土の粒の隙間へ。さらに、炭の中の小さな空洞へ。目を近づけると、違う大きさの余地が重なっている。

石と落ち葉の下で、不揃いの土の塊や炭のあいだへ根と細い菌糸が伸びている。地表にはシダの芽と草がある水彩の概念画(AI生成)
隙間に根が伸び、菌糸が広がる。

水を通しながら、土を潤す。その両立をもう少し小さなスケールで知りたくなったら、水はけと水もちを、土の隙間から考える話へつながる。

石を組んだあとにも、根が伸び、菌糸が広がる。土地の手入れには、人が手を動かす時間と、そのあとに生きものが働く時間がある。

僕が残したいのは、根が伸び、水や空気が動ける余地だ。手を入れたあと、この土地がどう変わっていくのかを見ていたい。

完成させない。育てる。

根拠