CHiMYAKU 探究の記録
土中環境とは何か? 水はけ・通気・保水を一緒に考える
水はけがよくて、水もちもいい。
草木が健やかに育つ土には、どちらもあってほしい。けれど、水を通すことと水を残すことは、反対の性質に聞こえる。土の中では、どう両立しているのだろう。
高田宏臣さんの『未来が変わる! 土中環境と有機土木』には、その手がかりがある。大きな隙間と小さな隙間が、一つの土の中で違う仕事をしている。
高田さんのまなざしは、その隙間に生きるものへも注がれている。2025年のインタビューでは、土中環境を、有機物や微生物を含む土の中の生態系全体として説明している。落ち葉がゆっくり分解され、草木が根を伸ばし、水と空気が巡る。その関わり合いまで含めて、大地を見ている。
僕は、目には見えないものに惹かれる。足元の土の中で、水はどこを通り、根や生きものはどう関わっているのか。見えている景色の、その奥にある営みを知りたくなる。
高田さんのまなざしを、「水はけと水もち」という身近な問いからたどってみたい。入口は、足元の小さな隙間だ。
水を通す隙間、水を保つ隙間
土の粒が集まってできる小さな塊を「団粒」という。団粒どうしの間にも、団粒の内側にも隙間がある。一つの塊をのぞくと、その中にも、さらに細かな隙間が広がっている。
大きな隙間では、水が重力に従って下へ流れやすい。水が抜けたところへ空気が入り込み、土の中の通気を支える。一方、小さな隙間は水を保つ。細い隙間に水が引き込まれる毛細管現象が、その働きの一つだ。
たとえば、ティッシュの端を水につけると、水がじわじわと上へ広がっていく。高田さんは『よくわかる土中環境』で、この身近な現象を土の中の水の動きに重ねて説明している。
水を通す場所と、保つ場所があるから、余分な水を逃がしながら潤いを残せる。鳥取県の土壌診断の手引きも、大小の隙間が共存する構造を、植物の生育に適した土の条件として挙げている。
ただし、土が保っている水のすべてを、植物が使えるわけではない。土の粒に強く引きつけられた水は、根が取り出しにくい。水もちを見るときには、草木がその水を受け取れるかにも目を向けたい。
水が流れ、空気が入り、根が伸びていく余地がある。水はけと水もちの両立を支えているのは、大小の隙間の組み合わせなのだ。
大小の隙間が、勾配と揺らぎの場になる
大小の隙間があることで、土の中にさまざまな違いが生まれる。水を保ちやすい場所と、抜けやすい場所。酸素が届きやすい場所と、根や微生物が使って少なくなる場所。隙間の形やつながり方に、生きものの営みが重なって、場所ごとの違いが生まれていく。
場所から場所へ、湿り気や酸素の濃さが変わっていく。その空間的な変化が「勾配」だ。酸素の濃さは、隙間の大小だけできれいに決まるわけではない。水の入り方や、根・微生物が酸素を使うことも関わっている。土を使った実験でも、大きな隙間ほど酸素が多いという単純な関係にはならなかった。
そこへ、雨が降る。水が土へ浸み込み、雨が上がれば、やがてまた乾いていく。同じ場所の湿り気や酸素も、時間とともに変わる。僕はこの移り変わりを「揺らぎ」と呼ぶ。土が湿ったり乾いたりするのに伴う酸素の変化は、実験でも観測されている。
大小の隙間が、勾配と揺らぎの場になる。雨の前と後、根のそばと少し離れた場所で、土の中の条件は同じではない。そこに、生きものはどんな居場所を見つけるのだろう。

生きものが、次の隙間を育てる
その生きものもまた、土の隙間を育てている。高田さんの著書は、植物の根や微生物が出す粘着物、菌糸などが、土の粒を結びつける働きを説明している。
米国農務省の土壌構造の資料にも、根や菌、ミミズなどが団粒や大きな隙間の形成に関わるとある。根は伸びながら土の中に道をひらき、枯れたあとにも、その通り道を残す。
葉が地面に舞い落ちる。その葉を分解する生きものがいる。草木は土の中へ根を伸ばす。一つひとつの営みが、次の根や水を迎える場所を作っていく。
草木が育つ土台を、その草木と周囲の生きものも育んでいる。僕が土の豊かさを感じるのは、この行き来だ。足元の土を見つめていると、そこに暮らす生きものどうしの関わりが見えてくる。
隙間の先に、水と空気の通り道がある
高田さんは『よくわかる土中環境』で、土中の水と空気の通り道を「通気浸透水脈」と呼んでいる。
水脈と聞くと、地中に一本の管が通っているように思えるかもしれない。高田さんは、そうした構造ではないと説明する。水は周囲の土をじわじわと潤しながら動き、空気もその動きに伴って土の中を行き来する。水と空気、それを受け止める土を、一緒に捉える言葉なのだ。
一つの団粒から少しずつ視野を広げてみる。隙間のつながり、根の伸びる場所、木の足元、雨を受け止める斜面。小さな土の構造の話が、土地全体をどう見るかという問いにつながっていく。
僕が「知脈」で育てたいのも、こうしたつながりだ。一つの知識から、身体、暮らし、土地へと問いを伸ばし、行き来する。そのつながりの中から、人と地球がともに豊かになる道を探したい。
雨上がりの地面から、その下を考える
雨が上がったら、庭の足元に目を向けてみる。
どこに水が残るのか。どこから引いていくのか。落ち葉に覆われた場所と、土がむき出しの場所で、地面の様子はどう違うのか。少し時間をおいて、もう一度しゃがんで眺めたら、どんな変化に気づくだろう。
水たまりは、考えるきっかけになる。ただ、一つ見つけただけでは原因まではわからない。土が締め固められて隙間が減った場合もあれば、土質や下にある層、もともとの湿り具合が関わる場合もある。米国農務省の資料も、水の浸み込み方をこうした複数の条件から説明している。
僕は自宅の土地に、落ち葉、竹炭、くん炭、藁、ウッドチップを入れてきた。2年後には、クローバーとダイカンドラが地面を覆うようになった。自然落下の種子から芽生えた実生の木々も一気に増えた。
この土地での実践は、知脈第1号にも書いている。土の硬さや水の浸み込む速さを施工前後で測ってはいないので、何がどれだけ変化をもたらしたかは、まだ分けられない。
芽生えた木々が育つにつれ、その足元の水や土はどう変わっていくのだろう。地表の変化を見守りながら、目には見えない土の中へも、問いを伸ばしていきたい。

足元の潤いを、暮らしにつなぐ
土に入った雨の行き先は、その場所だけでは終わらない。高田さんは『よくわかる土中環境』で、根に吸われる水と、さらに下へ動いて川へ向かう水を、一つのつながりの中で描いている。
庭の草木を育てる土。畑の作物が根を張る土。子どもたちが駆け回る園庭の土。水を受け止め、生きものを育むその場所に、人の毎日の暮らしも重なっている。
僕が医療と土地のあいだに伸ばしたい知脈は、ここにある。土の変化が人の健康にどう関わるかは、これから確かめたい問いだ。その問いを抱きながら、雨が浸みる地面や、木々が根を伸ばせる場所を、いまの暮らしの中で大切にしていきたい。
足元に落ちた一枚の葉から、その下で暮らす生きものや、次の雨の行き先へと想像が広がる。土の仕組みを知るたびに、見慣れた庭にも、まだ気づいていなかった営みが見えてくる。
人が暮らす場所を、生きものが育つ場所としても豊かにしていく。僕は、そのために土中環境を考えたい。
この話の確かさ
「確立知」としているのは、大小の隙間による排水・通気・保水など、土の基本的な仕組みの部分だ。「土中環境」を生態系全体として捉える説明と「通気浸透水脈」は高田さんに帰属する。水はけと保水を入口に、勾配・揺らぎや暮らしへつないだ文章は僕の整理と考察である。ここでいう「揺らぎ」は、雨や乾燥などに伴う時間的な変化を指す。自宅の変化は観察の記録で、個別の施工や人の健康への効果を示す実験ではない。
根拠
- 高田宏臣『未来が変わる! 土中環境と有機土木』パルコ、2026年、pp.17–19。ISBN 978-4-86506-483-4 団粒構造、生きものと土の粒の結びつき、水はけと水もちの両立。
- 高田宏臣『よくわかる土中環境』パルコ、2022年、pp.33、42。ISBN 978-4-86506-395-0 毛細管現象と植物・川とのつながり、通気浸透水脈の説明。42頁では、管のような構造ではなく、周囲の土を潤す水と空気の動きとして説明している。
- やなぎさわまどか「古来の土木が未来を変える。『土中環境』著者・高田宏臣さんに学ぶ、共生のまなざし」greenz.jp、2025年3月21日 高田さん本人へのインタビュー。土中環境を土の中の生態系全体と説明し、大地を生きものとして捉える見方・向き合い方にも言及している。
- 鳥取県『らくらく土壌診断の手引き』「13 土壌透水性・保水性の診断」、pp.35–36(農林水産省サイト掲載) 大小の隙間の共存、重力による排水、毛細管現象による保水。農地の土壌診断資料。
- USDA NRCS, Soil Quality Indicators: Soil Structure & Macropores, 2008 土の隙間と水・空気の動き、団粒形成に関わる根・菌・土壌動物。
- USDA NRCS, Soil Quality Indicators: Infiltration, 2008 土質・締固め・土の層の構造と、水の浸み込み方の関係。
- Lacroix EMほか. Effects of moisture and physical disturbance on pore-scale oxygen content and anaerobic metabolisms in upland soils. Science of the Total Environment. 2021;780:146572. 土壌試料の隙間の大きさと溶存酸素濃度の関係を調べた実験。
- Dutta Tほか. Vadose zone oxygen (O2) dynamics during drying and wetting cycles: An artificial recharge laboratory experiment. Journal of Hydrology. 2015;527:151–159. 高さ1mの土壌実験装置で、湿潤・乾燥に伴う酸素濃度の空間・時間変化を観測。
- 石黒伸「流域医療とは何か」知脈第1号 自宅の土地での実践と植生の変化、土壌の測定を今後の課題とした記録。