フィールドノート
石積みが変える水の流れ
2026.01.12
2026年1月、千早赤阪村の耕作放棄地で石積みのワークショップを行った。参加者は医療従事者、農家、土木技術者という異色の組み合わせ。しかし流域医療の実践において、この三者の協働こそが不可欠なのだ。
石積みとは、モルタルを使わずに石を組み上げる技術である。日本では古くから棚田の法面や里道の擁壁に用いられてきた。コンクリート擁壁と決定的に違うのは、石と石の隙間から水が通るという点だ。石積みは水を止めるのではなく、水と共存する。
現場で石を積みながら、ある医師が言った。「これは血管のバイパス手術と同じだ」と。詰まった水脈に新たな流路をつくり、土壌に酸素と水分を行き渡らせる。実際、石積みを施した斜面では、数週間で苔が生え始め、半年後には下草が回復する。水の通り道が変われば、生態系全体が応答するのだ。
この日積んだ石は約40個。長さにして8メートルほどの短い区間だが、翌朝には石積みの下流側の土がしっとりと湿り始めていた。データには表れにくい、しかし確実に起きている変化。流域医療のフィールドワークは、こうした微細な観察の積み重ねで成り立っている。