フィールドノート

千早赤阪村フィールドノート

2025.11.20

千早赤阪村フィールドノート

千早赤阪村は大阪府唯一の村であり、金剛山の西斜面に広がる典型的な中山間地域だ。人口は約5,000人。高齢化率は40%を超え、耕作放棄地が年々拡大している。しかしここには、流域医療の実践に理想的な条件が揃っている。

村を流れる千早川は石川の支流であり、やがて大和川に合流して大阪湾に注ぐ。この小さな流域の中に、山林、棚田、集落、そして下流の都市部という、流域医療が扱うすべてのスケールが凝縮されている。棚田の石垣が崩れれば保水力が低下し、下流の水量と水質に影響する。それが農作物の質を変え、住民の食卓を変え、健康状態を変える。

11月の視察では、棚田跡地の水脈調査を行った。地表面の水の流れを観察し、かつて石垣が水を分配していた痕跡を辿る。驚いたのは、石垣が残っている区画と崩落した区画で、土壌の含水率に2倍以上の差があったことだ。石垣一つで、その下流の生態系が完全に変わる。

午後は地元の高齢者と対話の時間を持った。80代の元農家が語った「昔はこの辺りの水でアトピーの子どもが治った」という証言は、科学的検証が必要だが、無視すべきではない。土地の記憶と身体の記憶は、流域という回路を通じてつながっている。次回は水質分析と土壌微生物の採取を行う予定だ。